荒井知事の年頭の「抱負」を考える
真に地域経済を活性化する道は
荒井知事は年頭記者会見などで、今年力を入れたい施策として「脆弱な地域経済の活性化」をあげ、県内への「投資、雇用、消費」を拡大するため、「企業誘致」と「観光産業の育成」を図ると表明しています。
なかでも「本物を楽しめる奈良」をめざした取り組み、「奈良への来訪者数・宿泊客の増加」を掲げ、全国でも高い水準にある「宿泊客数のシーズンのオンとオフの格差比率」の平準化で、「県内消費の拡大」を図るとしています。
観光客が求める奈良の良さとは
そのために知事が進める「世界に誇れる公園」をめざすという「奈良公園基本戦略」や「大宮通りプロジェクト」には、平城宮跡・第1次朝堂院広場の舗装工事や若草山へのモノレール敷設、県営プール跡地へのホテルなどを備えた大型複合施設誘致などが含まれています。
その具体化を図るため、文化財保護法の現状変更許可の権限移譲や都市公園法による公園の保存要件の緩和を要求し、世界遺産条約に基づくルールもないがしろにして、一時的な経済的利益を追求する事業を進めようとしています。
しかし、こうした事業は、千数百年の歴史の中で形成された文化的景観や自然遺産、古寺の文化財などの価値を台無しにし、奈良の魅力を破壊する「まちこわし」でしかなく、知事のめざす方向とは真逆の事業です。
観光客が古都・奈良に求める「もの」とは、静かなたたずまいの中で「ほんもの」に触れることができる「空間」ではないでしょうか。
奈良は古代から人々の生活があり、大和王権から律令国家の成立、南北朝時代から「天誅組の変」が起きた江戸・幕末、そして現代へと受け継がれてきた日本歴史・文化発祥の地として、いつの時代も人々を魅了してきました。奈良公園も、神道や仏教など日本の「宗教的空間の特質」を表し、「宗教儀式や行事が盛んに行われ、市民の生活や精神のなかに『文化』として生き続けている」地域です。
観光資源の特長を生かす地域発の振興を
繰り返し訪れるリピーター客・宿泊客の増加を図るには、奈良の優れた地域資源で観光客をもてなし、上質な時間を過ごしてもらえる、滞在・回遊型の観光戦略を追求することが必要です。
県が第1になすべきことは、若草山へのモノレール敷設など奈良の「まちこわし」事業を中止もしくは見直すことです。第2に観光地ごとに、日々の暮らしの中、地域の固有価値とその重みや良さを知っている地域住民と、商工・観光業などの関係者が相互に連携した協議会を組織し、「地
域益」の観点から産業の「経済的・文化的価値」の維持・向上をはかる取組みの提案を受け、具体化を進めることです。
県内には若者や海外旅行者などに低料金で宿泊を提供する「ゲストハウス」、民泊、子どもたち
の「林間学校」、スポーツ合宿など滞在型の「グリーンツーリズム」運動で「地域おこし」を進める人たちがいます。地域に息づいている奈良墨・筆、吉野手漉き和紙など多種多様な伝統工芸品産業と奈良観光をリンクさせ、「ものづくり」が体験できる工房などを開設する事業者がいます。
こうした試みを実践する団体や経営者に県が支援・共同し、着実に成果をあげることができれば、県内消費の拡大や、従事者の賃金・雇用の拡大につながる好循環を生み出し、地域経済の活性化を図ることができるでしょう。